「接客しかしてこなかったけど、営業でやっていけますか?」
営業職専門の転職支援をしていると、飲食店や販売職の方からいちばん多く聞かれるのがこの質問です。
そして次に多いのが「営業に移るなら、何を売る会社を選べばいいですか?」という質問です。
はじめまして、キャリアライターの三浦拓海です。
大学を出てアパレル販売を3年経験し、そのあと住宅設備の会社で太陽光発電や蓄電池、エコキュートの訪問営業を7年やってきました。
今は営業職に転職したい方の相談に乗りながら、こうして記事を書いています。
私自身、販売から営業に移った最初の半年は、何をどう話せばいいのか分からず苦労しました。
それでも続けられたのは、扱う商材と売り方が、自分の接客経験と合っていたからだと思っています。
この記事では、接客の経験が営業のどこで役に立つのかを整理したうえで、商材を選ぶときに見ておきたい軸をまとめました。
転職先を選ぶ前の地図として使ってもらえたらうれしいです。
目次
飲食・販売から営業へ移る人は珍しくない
まず、数字で状況を確認しておきます。
厚生労働省の令和7年雇用動向調査(2026年8月公表)によると、一般労働者の離職率がもっとも高い産業は「宿泊業,飲食サービス業」で21.5%でした。
入職率も24.4%で、人の出入りがいちばん激しい業界です。
同じ調査で、転職した人の賃金が前職より「増加」した割合は40.8%でした。
年齢別に見ると25〜29歳で49.8%、30〜34歳で48.6%です。
20代後半から30代前半では、転職した人のおよそ半数が収入を上げています。
求人の数も見ておきましょう。
厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年7月分)の参考統計表では、「営業職業従事者」の有効求人倍率は2.05倍でした。
「一般事務従事者」の0.29倍と比べると、未経験でも入口が見つけやすい職種です。
ただし、求人が多いことと、どこに入っても活躍できることは別の話です。
だからこそ、何を売る会社かを選ぶことに意味があります。
接客と営業、同じところと違うところ
土台の「聞く力」はそのまま使える
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」には、職業ごとに求められる能力を数値で示した「しごと能力プロフィール」があります。
0〜7の目盛りで、数値が大きいほどその仕事で求められる度合いが高いことを表しています。
接客の仕事と住宅系の営業を並べると、次のようになります。
| 職業 | 傾聴力 | 説明力 |
|---|---|---|
| ホールスタッフ(レストラン) | 3.5 | 3.1 |
| 衣料品販売 | 3.8 | 3.4 |
| 住宅・不動産営業 | 4.4 | 4.0 |
3つの職業とも、同じ欄に並ぶ読解力・文章力・説明力より「傾聴力」の数値が高くなっています。
相手の話を聞く力は、接客でも営業でも仕事の土台です。
違うのは数値の高さで、営業のほうが聞く力も説明する力も一段上を求められます。
接客で身につけた聞く力を、もう一段深く使うのが営業だと考えるとイメージしやすいと思います。
住宅・不動産営業のページには「入職にあたって、特に学歴や資格は必要とされない」とも書かれています。
いちばんの違いは「相手がまだ欲しがっていない」こと
アパレルの店頭に立っていたころ、お客さまは「服を買うかもしれない」と思って来店していました。
飲食店も同じで、来店した時点でお客さまの目的ははっきりしています。
営業に移ってまず戸惑ったのは、商品の必要性をまだ感じていない相手と話す場面がほとんどだったことです。
接客は求められてから応える仕事で、営業は求められる前に役に立てることを探す仕事です。
この違いを知らずに入ると、最初の数カ月でつまずきやすくなります。
逆に言えば、この「最初の一歩」の負担が軽い商材や売り方を選べば、接客の経験はかなり早い段階から武器になります。
商材を選ぶときに見たい4つの軸
営業の仕事は、何を・誰に・どう売るかで中身がまったく変わります。
求人を見比べるときは、次の4つの軸で整理してみてください。
| 軸 | 選択肢 | 接客経験との相性 |
|---|---|---|
| 誰に売るか | 個人向け/法人向け | 個人向けは家庭の暮らしを想像して提案するため、店頭の感覚が活きやすい |
| 形があるか | 有形商材/無形商材 | 有形は実物やカタログで説明でき、最初の数カ月を乗り切りやすい |
| 相手との関係 | 新規開拓/既存顧客 | すでに接点がある相手への提案は、話を聞いてもらえるまでの壁が低い |
| 単価と検討期間 | 低単価で即決/高単価でじっくり | 高単価は家族で検討する時間が長く、信頼をつくる接客力が問われる |
法人向けの無形商材(ITサービスや広告など)は、転職サイトでもよくすすめられている選択肢です。
ただ、会議室で決裁者に論理的に説明する仕事になるので、接客とは使う筋肉がかなり違います。
接客出身者が力を出しやすい組み合わせ
私が相談者によくすすめるのは、次の条件がそろった商材です。
- 個人のお客さまが相手で、家族構成や暮らしぶりを聞きながら提案できる
- 実物やカタログがあり、形のある商品として説明できる
- 何かしらの接点がある相手に会いに行く営業で、完全な飛び込みではない
- 同行研修や分業など、少しずつ仕事を覚えられる仕組みがある
飲食店で常連さんの好みを覚えていた人や、販売でお客さまの「本当は何に困っているか」を聞き出すのが得意だった人は、この条件に当てはまる営業で伸びやすいです。
住宅エネルギー設備は、接客の経験を持ち込みやすい
条件に当てはまる商材の例として、私が長く扱ってきた住宅用の太陽光発電や蓄電池、エコキュートを紹介します。
太陽光を付けた家への「次の提案」
国民生活センターの資料によると、住宅用太陽光発電の固定価格での買取期間は10年と定められていて、2019年以降、順次満了しています。
いわゆる「卒FIT」です。
買取期間が終わると、つくった電気を売るより家で使うほうが得になる家庭が増えます。
そこで、蓄電池に電気をためて夜に使う、太陽光の電気でお湯を沸かす、といった相談が生まれます。
すでに太陽光を付けている家庭は、電気代や発電量への関心がもともと高い方たちです。
現場ではまず「今どれくらい発電していますか」「電気代はいくらくらいですか」と聞くところから話が始まります。
質問して、相手の暮らしを想像し、合う商品を案内する流れは、店頭での接客によく似ていました。
例:エスコシステムズの分業制
住宅エネルギー設備の営業で、接客出身者を積極的に採用している会社の一例が、東京都中央区勝どきに本社を置く株式会社エスコシステムズです。
太陽光パネルを設置済みの家庭を訪問し、蓄電池やエコキュートなどの省エネ設備を提案しています。
この会社の特徴は、営業の工程を3つに分けている点です。
| 担当 | 仕事の中身 |
|---|---|
| ラウンダー(RU) | 太陽光を設置済みの家庭を訪問し、簡単なアンケートをしてアポイントを取る |
| アプローチャー(AP) | 設置時の費用や今の発電状況を聞き取り、合う商材を案内する |
| クローザー(CL) | 最適な省エネ機器を提案し、契約につなげる |
契約が決まると、その案件に関わったラウンダーとアプローチャーにもインセンティブが出る仕組みです。
入社後はラウンダーから始め、アプローチャー、クローザーへと段階的に仕事を広げていきます。
採用サイトのよくある質問では、研修期間は平均3カ月と説明されています。
採用サイトの職種紹介には、アプローチャーについて「積極的な売り込みは行いません」とあり、お客さまの悩みや要望を聴くことが大切だと書かれています。
求人の歓迎要件にも「接客や販売など人と関わるお仕事の経験がある方」と明記されていて、営業職の約半数が未経験からのスタートだそうです。
求人には、元飲食店店長の先輩社員の実例も載っています。
入社1年で月間商談数40件、そこから契約担当につないだのが22件、成約が11件で、インセンティブは42万円だったとのことです。
採用サイトの社員インタビューでは、10年以上美容師をしていた社員が、入社後に戸惑った点を話しています。
美容室ではお客さまが来てくれたけれど、営業ではこちらから会いに行く。
お客さまの多くは、商談の前にはまだ製品の必要性を感じていない。
この違いに戸惑いながらも、営業の知識を学び、ロールプレイを重ねて克服したそうです。
接客から営業に移った人がどこでつまずき、どう乗り越えるのかがよく分かる話です。
仕事の分け方や研修の流れ、東京・関西・東北の支店ごとの募集条件は、エスコシステムズの営業職の募集ページで確認できます。
転職前に確かめておきたいこと
商材との相性がよさそうでも、働き方の条件が合わなければ長く続きません。
個人向けの住宅系営業に応募する前に、次の点は必ず確認してください。
休日は土日か平日か
個人のお客さまは土日のほうが家族そろって話を聞けるため、土日出勤の会社が多いです。
先ほどのエスコシステムズも、採用サイトで「基本的には土日祝は出勤」と説明しています。
ただし、子どもの行事や友人の結婚式などで土日に休みたい場合は、上長と相談して取得できるとも書かれています。
飲食や販売から移る人は、「営業になれば土日休みになる」と思い込みがちです。
個人向けの営業では平日休みが続くことも多いので、生活リズムが合うかは面接で確かめておきましょう。
給与の内訳とインセンティブの条件
求人票では、次の3点を確認します。
- 月給のうち基本給はいくらか
- 固定残業代が何時間分含まれていて、超えた分は別に払われるか
- 試用期間中もインセンティブが出るか
インセンティブのある会社でも、試用期間中は対象外というケースがあります。
入社直後の数カ月は、固定給だけで生活できるかを計算しておくと安心です。
法令を守った営業をしている会社か
家を訪問する営業には、特定商取引法の訪問販売のルールが適用されます。
消費者庁の特定商取引法ガイドによると、勧誘の前に事業者名や勧誘の目的を告げること、断られたら勧誘を続けないこと、契約書面を渡すことなどが義務づけられています。
お客さまには、書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフできる権利もあります。
国民生活センターの2021年の発表では、家庭用蓄電池に関する相談は2020年度に1,314件ありました。
2016年度以降の相談を販売の形で分けると、訪問販売がもっとも多くなっています。
「今日限り」と契約を急がせる勧誘の事例も紹介されています。
こうしたルールを研修できちんと教えているか、アフターサービスの窓口があるかは、面接で聞いてかまいません。
お客さまに納得して選んでもらえる売り方をしている会社なら、接客で大事にしてきた感覚をそのまま持ち込めます。
まとめ
接客の経験は、営業の世界でも十分に通用します。
聞く力という土台は同じで、違うのは「まだ欲しがっていない相手」と話す場面が増えることです。
商材を選ぶときは、次の4つの軸で求人を見比べてみてください。
- 個人向けか法人向けか
- 形のある商材か
- 既存の接点がある相手か
- 単価と検討期間はどれくらいか
個人向けで形があり、すでに接点のある相手に提案する商材なら、最初の壁が低く、接客で培った力を早い段階から発揮できます。
住宅用の太陽光発電や蓄電池の営業は、その条件に当てはまる選択肢のひとつです。
私も販売から営業に移ったとき、最初は不安でいっぱいでした。
それでも、お客さまの話を聞いて暮らしに合うものを選ぶ、という仕事の芯は店頭と同じでした。
これまでの経験を活かせる場所を、商材の中身から探してみてください。







