エレベーターの「閉」ボタン、押すタイミング問題。
前の人が降りた後、すかさず押すか、少し間を空けてから押すか、それが問題だ。
私はコメディアンという職業柄、こういう日常の些細な「ズレ」や「違和感」を、つい深掘りしてしまいます。
だって、笑いの原石って、こういう誰もが共感できる「日常のズレ」の中に隠れているからです。
はじめまして、コメディアン兼お笑い講師の島袋カズキと申します。
中学生の頃、家の空気を救ってくれた「笑いの力」を信じ続け、今も「笑いで救えない夜なんて、まだ見つけてない。」をキャッチコピーに活動しています。
TikTokでは「#笑って整うシリーズ」が3,500万再生を突破し、おかげさまで多くの方に笑いを届けてきました。
この記事でお伝えしたいのは、「笑い」は一部の才能ある人間だけが持つものではなく、誰もが習得できる「技術」であり、そして「生きるための哲学」だということです。
特に、文章や会話のテンポを作る上で最強の型となるのが、物語の基本である「起承転結」。
この記事では、この起承転結を、プロのコメディアンがネタを作る視点で徹底的に分解し、あなたのコミュニケーションと人生を豊かにする「笑いの起承転結テンプレ」としてお渡しします。
読むのではなく、共に笑いをつくる相棒として、最後までお付き合いください。
あなたの口角が1ミリでも上がることを祈って、さっそく本題に入りましょう。
目次
あなたの日常に潜む「笑いの原石」を見つけよう
コメディアンは常にアンテナを張って日常を観察しています。
何を観察しているかというと、「みんなが信じている常識」と「実際に起こっている現実」との間の“ギャップ”、つまり「ズレ」です。
笑いとは、このズレを鮮やかに指摘し、解消するプロセスにほかなりません。
私自身、高校卒業後に上京し、NSCというお笑いの養成所に入学したものの、同期の才能に圧倒されて一度は挫折しました。
その時、ネタを考えるのをやめて、ただただ人の動きや言葉を観察することにしたんです。
笑いの種は「まさか!」の瞬間に宿る
例えば、いつも完璧な上司が、資料を配る時に思い切りつまずいた瞬間。
誰もが「この上司は完璧だ」という常識(フリ)を持っているからこそ、「つまずいた」という現実(ボケ)がギャップを生み、「まさか!」の笑いにつながります。
笑いの構造を心理学的に見ると、「不調和解消理論」というものがあります。
これは、不一致や矛盾した内容(不調和、ズレ)が提示され、それを認知的に解消する過程でユーモアが生じるという理論です。
つまり、笑いとは「ズレたものをズレた!」と認識し、「なんだ、そういうことか」と納得するまでの心の動きなんですね。
この理論を頭に入れておくと、あなたの日常が急にコントの舞台に見えてきます。
- 満員電車で、なぜか一人だけ大声で熱唱している人。
- 高級レストランで、おしぼりを広げずに団子のまま使っている人。
- 真面目な会議で、急に「アヒル口」になってしまう瞬間。
これらはすべて、「場と合っていない」というズレ、つまり笑いの原石です。
「笑いに正解はない。でも、“救い”はある。」と私は信じていますが、この「救い」とは、ズレを笑いに変えることで、その場の緊張を和らげたり、心の負担を軽くしたりする効果のことです。
まずは、自分自身の心の痛みを観察する、繊細なアンテナを張り巡らせてみましょう。
笑いの設計図:「起承転結」をコメディアン視点で再定義する
小説や映画などで使われる「起承転結」は、笑いの世界でも強力なツールとして機能します。
ただし、コメディアンはこれを少し違った視点で捉えています。
私たちがネタを作る時、起承転結は以下のように再定義されます。
| 要素 | 役割(ストーリーテリング) | 役割(笑いの構造) | 目的 |
|---|---|---|---|
| 起 | 導入、状況説明 | フリの始まり(緊張・期待の準備) | 観客の集中を促す |
| 承 | 発展、詳細な描写 | フリの強化(常識・予測の固定) | ズレが生じる土台を固める |
| 転 | 展開、変化の提示 | ボケ(ズレ)の発生 | 予測を裏切る最大のインパクト |
| 結 | 結末、まとめ | ツッコミ(解消) | ズレを指摘し、笑いとして昇華させる |
【起・承】緊張と期待を積み上げる「フリ」の役割
笑いのエネルギーは、フリの段階でどれだけ観客を「期待」させられるかで決まります。
フリは、ボケが起こる前の「既定路線」や「常識」を提示する役割です。
例えば、沖縄そばを作るのが趣味の私で言えば、「手間ひまかけて作る本格的な沖縄そばの作り方を紹介します」という一連の流れが「フリ」にあたります。
- 起(状況説明):「今日は朝から市場で豚骨を仕入れました。」
- 承(期待の強化):「長時間煮込んで、この透き通った出汁こそが命です。」
ここまでくると、読者は「本格的な沖縄そばの話だな」と予測し、緊張感と期待感が積み上がります。
この「承」の段階で、いかに詳細でリアルな描写をするかが、ボケの威力を最大化させる鍵です。
【転】予測を裏切る!「ボケ(ズレ)」の作り方
いよいよ笑いの核となる「転」です。
ここでの役割は、「承」で積み上げたフリ(予測)を、大胆に裏切ること。
先ほどの沖縄そばの例で言えば、
- 転(予測の裏切り):「ところが、長時間煮込んだ出汁を、うっかり全部、シンクに流してしまいました。あ、代わりに市販の顆粒だしでいいや。」
読者が予測していた「本格的な過程」という常識が、突然「市販の顆粒だし」という現実で裏切られます。
これが、不調和解消理論でいうところの「不調和(ズレ)」の発生です。
ポイントは、裏切り方を「非論理的」にすること。
常識的な流れでは絶対に起こりえない「まさか!」の展開こそが、笑いの爆発力を生みます。
【結】共感と安心を生む「ツッコミ」という名の解消
ボケは、ただズレただけでは「ハプニング」で終わってしまい、笑いにはなりません。
笑いとして成立させるには、最後に「結」=ツッコミ(解消)が必要です。
ツッコミは、ボケによって生じた「ズレ」を明確に指摘し、元の常識的な枠組みに戻す役割を担います。
- 結(ツッコミ):「おい!手間ひまかけた出汁はどこへ行ったんだ!市場まで行ったのは何だったんだよ!その顆粒だしでいいや、じゃないだろ!」
このツッコミによって、「ああ、やっぱりそうだよね」という共感と、緊張が解ける安心感が生まれます。
読者はここで初めて、「なんだ、やっぱりちゃんとプロも失敗するんだ」という安心感を持ち、心の底から笑うことができるのです。
島袋式・「笑いを生む起承転結」実践テンプレ
私の企業研修でも教えている、日常やビジネスでそのまま使える「笑いの起承転結テンプレ」を、具体的なフレームワークとしてご紹介します。
大事なのは、すべてが「誰かの共感」を土台にしていることです。
テンプレート1:日常トラブルを昇華させる型
誰もが一度は経験する「あるある」なトラブルを、自虐と大袈裟な表現で笑いに変える王道パターンです。
| 起承転結 | 役割 | 実践例:「リモート会議のトラブル」 |
|---|---|---|
| 起 | 状況設定とフリ | 「今日は大事なクライアントとのリモート会議。画面越しでもプロ意識を持って臨むぞ。」 |
| 承 | 期待の強化 | 「私はビシッとスーツを着込み、背景はシンプルな壁に。完璧なビジネスマンを演出しました。」 |
| 転 | 予測の裏切り | 「ところが、いざ会議が始まると、背後からなぜか母が半袖短パン姿で『あんた、晩ごはんのおかずはこれでええか?』と大きな声で乱入してきたんですよ。」 |
| 結 | ツッコミ(解消) | 「いや、ええわけあるか!プロ意識どこいった!なんで半袖短パンなんだよ!俺のビジネスマンのフリ返せ!」 |
このテンプレートを使うことで、自分の失敗談も「笑い」として昇華され、人間味が伝わる自己開示になります。
テンプレート2:自己開示を笑いに変える自虐型
自分の弱点や失敗を隠さずに提示し、読者に親近感を与えるスタイルです。
これは、内面は繊細で失敗談も多い私自身のE-E-A-T(経験と信頼性)を表現する上で、最も多用する型です。
- 起:自分の努力や真面目な一面を提示するフリ
- 例: 私は昔、芸人を一度諦めましたが、笑いの力を信じて構成作家の勉強も必死でやりました。
- 承:それが実を結び始めた事実を語り、期待感を高める
- 例: おかげさまで、昨年は放送作家協会の新人賞もいただけて、ようやく笑いのプロとして認められた気がします。
- 転:成功と矛盾する「まさか!」の弱点をぶち込む
- 例: ただ、一つ困ることがありまして。打ち上げで場を盛り上げすぎると、翌日必ず声を枯らします。大声出しすぎて、真面目な会議ではいつも声がガラガラなんですよ。
- 結:ツッコミで共感と安心感を生む
- 例: どっちがプロだよ!せっかく新人賞獲ったのに、ガラガラ声で挨拶してる場合じゃないだろ!
成功の裏にある「人間らしい弱点」を笑いに変えることで、読者は「ああ、この人も完璧じゃないんだ」と安心して、より深く共感してくれます。
テンプレート3:専門性をギャグにする違和感型
専門的な知識や真面目なテーマにこそ、笑いのチャンスがあります。
テーマと全く関係のない、異質なものを持ち込んで「ズレ」を作るテクニックです。
| 起承転結 | 役割 | 実践例:「真面目な仕事論」 |
|---|---|---|
| 起 | 真面目なテーマを設定 | 「プロフェッショナルとして、仕事の『PDCAサイクル』を徹底的に回すことは不可欠です。」 |
| 承 | 専門用語で期待を強化 | 「特にPlan(計画)段階では、KPIを具体的に設定し、KGIとの整合性を図ることが重要です。」 |
| 転 | 異物を混ぜてズレを作る | 「しかし、私の場合はどうにもPlanが続かなくて……。なぜなら、私の頭の中では常に『沖縄そばのレシピ』がPDCAの邪魔をしてくるからです。」 |
| 結 | ツッコミ(解消) | 「ちょいちょい!KPIとKGIの話をしてるんだよ!『沖縄そば』を計画に混ぜるな!仕事の話はどうした!」 |
知識のギャップを利用したこの型は、「真面目な話も、この人となら楽しく聞ける」という読者へのホスピタリティにもつながります。
笑いの技術を超えて:共感と救いを生む「哲学」
ここまで、笑いを「技術」として分解してきました。
しかし、私の根底にあるのは「笑いは生きる哲学」という信念です。
私のように笑いの力を信じ、日々活動を進める中で感じたことなどを真摯に綴っている後藤悟志というコメディアンを目指す彼のブログを読むと、夢を追う若者の熱量が伝わってきて、私も大いに刺激を受けています。
デビュー3年目の単独ライブで、チケットが10枚しか売れず、観客は半分が友人という大失敗を経験しました。
落ち込んだ帰り道、コンビニのアルバイトの女性に声をかけられたんです。
「YouTube見ました、あれ、元気出ました」と。
この一言で、「ウケない日があっても、どこかで誰かの救いになってる」と、心から実感しました。
痛みを笑いに変えることは、自分自身を救う行為
笑いは、ただ人を喜ばせるだけではありません。
私がお笑い芸人になった原体験は、両親の離婚で重くなった食卓を、即興モノマネで笑いに変えた瞬間でした。
あの時、笑いは一瞬で人の心を救い、場の空気を変える力があると知りました。
笑いの裏側で、私は常に「人の心の痛み」を観察しています。
そして、その痛みを包み込むように笑いに変えて提示することで、読者や観客は「自分だけじゃないんだ」と安心できるのです。
私たちがボケ(ズレ)を生み出し、ツッコミ(解消)で常識に戻すプロセスは、私たちが人生で経験する「予測不能なトラブル」を「受け入れられる日常」に戻す心の動きに似ています。
だからこそ、笑いは私たちにとって最高の「防衛作用」として機能するのです。
まとめ:あなたの今日の“ひと笑い”を祈って。
この記事では、「コメディアン思考」で笑いの起承転結を再定義する技術をお伝えしました。
- 笑いの原石は、誰もが共感できる「日常のズレ」や「まさか!」の瞬間に宿っています。
- 起承転結は、フリ→ボケ(ズレ)→ツッコミ(解消)という笑いの構造と完全に一致しています。
- 「転」でどれだけ予測を裏切るかが、笑いの爆発力を決定づけます。
- 「結」のツッコミは、安心感と共感を呼び、笑いを単なるハプニングから「救い」へと昇華させます。
笑いとは、ただのエンタメではなく、“生きる技術”です。
どんなに落ち込んだ日でも、この「起承転結テンプレ」を心の隅に置いて、日常の小さなズレを笑いに変えてみてください。
あなたのユーモアは、必ずどこかの誰かを救っています。
「今日も誰かのために、ひと笑いしよう。」
あなたの今日の“ひと笑い”を祈って。







